تسجيل الدخول色んな想いが交差し、気がつけば少し冷えてきた。
南との思い出は、忘れる事はなく、思い出す事も普段なかった。 それくらい平穏と平凡に過ごせていた。 明日からまた変わらない一週間が始まる、変わらない休日を過ごし、気持ちの準備を整える、平凡に平穏に仕事をしよう。 またあの人来てくれたらいいな。 その気持ちだけ今までと違った。 そしていつものルーティーンを終え、いつもの仕事をこなす。 「おはようございまーす」 『隼人おはよう』 「週明け仕込み多いですね」 『別に平気だよ』 「早めにこっちの仕事終わらせて手伝います」 『ありがとね』 今日も変わらないスタートに安心する。 決められた誰にでもできる簡単な作業、なぜか今日はいつもより丁寧だった。 「もう秋ですね」 『そうだね、そろそろキノコ使って何かオススメ出さないとね』 「じゃー今日は試食会ですか?」 『そうしようか?まだちゃんと決まってないけど、ゆかりも喜ぶだろうね』 「あいつなんでも喜びそうですよね」 『まぁそれがゆかりの良いところだよ、まぁ焦らずゆっくり一つずつ終わらせて、落ち着いたらやろうか』 「僕も手伝いますね」 『いつもありがと』 今日も変わらないが、当たり前の毎日の中で、いつもより少しだけ幸せを感じようとしてみた、あの人にまた会えるかも知れないと言う気持ちからなのか、それは自分にも分からなかった。 「おはよーーございまーす」 『はいおはよ』 「あれ?仁さん少し機嫌良さそう?」 『なんにもかわらないよ?ゆかりの方こそ何か良い事あった?』 「えっ!?わかりますー??良い感じの人とうまく行きそうで!」 『そっか、またゆっくり聞かせてもらおうかな』 「あっ、あんまり興味あるなさそうなんですけど」 『そんな事ないよ』 「いいから、早く準備しろよ」 「はいはいー」 呆れた顔で隼人はこちらを見ているが、微笑ましい限りだった、そして何よりも平穏なこの空間や雰囲気は、大切な物で間違いない。 取り繕うだけでなく、ここにいる自分は穏やかで、気がつけば知らぬ間に自分らしくいられているのかも知れない、二人には感謝している。 こんな自分でも良いのかと迷いながらも、こうして過ごせてる毎日にも。 『今日もいくよ、頑張ろう』 そう言って始まった営業も悲しいか嬉しいか特に何事なく過ぎていく、これで良くて、これが良い毎日の繰り返しの中で、自分だけの密かな幸せをかみしめる。 「つかれたー」 「そんなに忙しくなかったけど、週初めって疲れるよねー」 『二人ともありがとう』 「不思議なんですけど兄さん毎日いつも通りなんですか」 「確かにーなんかずるい」 『そうかな?疲れてるよちゃんと、それに二人のおかげで楽できてるんだよ、いつもありがとう』 毎日毎日の事が当たり前になってくと、疲れる事もあまりなくなってくるものだ、それに自分のペースでやれてる分楽なんだろう。 こんなに自分が楽で来る事も、きっと自分だけの力では無く、二人が頑張ってくれてるからだろう、毎日の些細な事に感謝をして行こうとなぜか思った。 今まで、こんな事を深く考えることはあまりなかったが、ここ最近はそんな風に思える事が小さな幸せになりつつある。 薄っぺらい笑顔と、適切すぎる言葉遣い、相手の気持ちを汲み取る事も、しなくてもこう言う幸せは以外と近くに転がっているのかも知れない。 「そういえば試食会の準備できなくないですか?」 隼人に言われて思い出す。 『あっ、すっかり抜けてたね』 「えっ私聞いてないんだけだけど」 「別に言ってないからね」 「感じ悪過ぎない?」 「いつもだろ笑」 『ごめんごめん、隼人とゆかりに内緒でやってあげよって話してたんだ、オレがすっかり忘れてたよ』 「仁さん謝る事ない!隼人にムカつく!」 『隼人やめてあげなよ笑』 「あっ仁さんまで笑ってる!やっぱり二人ともムカつく!」 『ごめんごめん、なんだか楽しくてさ、ついつい笑っちゃった、二人とも仲良いね』 気がつけばこんなくだらない会話を自分も一緒になってしている、これでいい、これがいい、 『二人ともいつも本当にありがとう』 「何が!?」 「何がですか?」 『なんでもないよ、今日は準備できなかったけど、今週末試食会しようかどう?』 「それで手を打ちましょう!」 「それありですね」 『それまでとりあえず頑張ろうか』 少しだけ週末が楽しみだった。 二人との時間も、もしかしたらまた週末にあの人が来るのではないかと少しの期待があったのだろう。 自分でも分からなかった所を、もしかしたらゆかりはなんと無く察したのだろうか、来て欲しい気持ちと、何を話そうか、こんな自分が名前を聞いて良いものなのか、むず痒い感情と、この気持ちが何なのかを確かめたい感情が交差する。 何か変われたのだろうか、変われるのだろうか、自分らしく真っ直ぐで居ても迷惑じゃないだろうか、時間が過ぎるのが早くなる。 あっという間に週末を迎える、忙しなく流れる時間の中で、誰しもが毎日何かを感じながら一人一人違う毎日を過ごしているのだろう。 食べに来てくれる人達の見送る時度に考えさせられる。 「仁さーん今日は試食会ですよね?」 『そうだよ、色々考えてきたよ』 「兄さん何か手伝います?」 『いや、いいよ色々試してみたい、二人は食べる専門でお願い』 「やったーー、専属シェフって事?」 「お言葉に甘えてそうします」 『まっててね』 頭の中を整理して、思い描く料理を作る時はいつも無心になれるし、余計な考え事などせず没頭出来る時間はいつもここだけだ。 弱火からオリーブオイルで椎茸焼き目をつけて、火が通り過ぎないように一度上げる。 ベーコンに火を通し、その油でみじん切りのニンニクに火を通し、香りが立ったらエリンギ、しめじ、マイタケを加えて少し強火で火を通す。 火を止め、椎茸と合わせる。 アクセントにあまり無いが、少しの辛さも足したいからアレンジを加える、鷹の爪を少しだけ入れてみた。 クリームソースを加え、茹で上がったパスタと和える。 最後に黒胡椒とチーズ振りかけ、レモンを一絞り。 なんて事ないただのクリームパスタだが、 味には自信があった。 バターと小麦を弱火で良く混ぜて、少しずつ牛乳を加えていく、かたまり加減と塩胡椒の加減が絶妙なベシャメルソースを作る。 新鮮な牡蠣の蓋を外し、ベシャメルソースとほうれん草にキノコ類を乗せて、オーブンへ。 牡蠣のグラタンもなんと無く思いつた。 試食会はいつもこんな適当な感じで、あらかたの基盤を作り、常連さんが飽きない工夫をしていく。 細かい部分その都度合わせて変えていくのが、難しいが、それが楽しい事の一つでもあった。 「すごい良い匂いだー」 「流石にお腹空いてきました」 『素直に意見してね、乾杯しようお疲れ様」 食べ始めてから二人の顔は嘘もなく嬉しそうで、その顔を見るのが嬉しかったりした。 立ちこめるクリームとキノコの匂いに、チーズとワインがよく合う。 『どうかな?』 「めっちゃ美味しい!」 「なんだろう、いつものクリームソースパスタより美味しいです!」 素直に嬉しかった、こうやって自分が作ったものを美味しいと言われる事は自分にとっては幸せそのものであると実感し、唯一自分を表現できる事だった、毎日色んな人達に喜んでもらえてる時、少しだけでも自分を肯定してあげても良いのではないかと思う。 『おすすめで出せそうかな?』 「兄さんこれいけますよ」 「くどくないし、少しの辛みが癖になる!」 『ありがとう、なら来週からやろう、隼人にあらかたベースは教えるね、ゆかりには黒板に書いてもらね』 こう言った些細な幸せを感じながら、色んな人に喜んで貰えたらそれ以上求めてる必要もないのかも知れないが、あの人がこれを食べた時どんな顔するのか、どんな言葉をするのか、それが知りたい。 少しだけわがままになっても良いのだろうか悩みながらも、あの人を想い作ったこの料理はきっと他の料理達よりも美味しいはずだった。 あの人は、いまどこで何をしてるだろう、考えるだけで心が躍り、早くあの人に作ったこれを、食べて欲しい気持ちが前のめりに動いていた。 「兄さんいつも美味しいご飯ありがとうございます」 「仁さんいつもご馳走様」 『二人ともいつも本当にありがとう』 こんな毎日が最近ではちゃんと幸せだと感じられる、二人に感謝は忘れられない、こんな平穏で平凡な毎日をくれてありがとう。 誰にも気づかれなくても 確かにそこに在り続ける 幸せがわからなかった日々の中で ふと見つけた小さな紫色が心を少し 温めてくれる 控えめで儚く それでも確かな理由になるほどの幸せが 今日も足元に咲いているスミレの様だった。色んな想いが交差し、気がつけば少し冷えてきた。 南との思い出は、忘れる事はなく、思い出す事も普段なかった。 それくらい平穏と平凡に過ごせていた。 明日からまた変わらない一週間が始まる、変わらない休日を過ごし、気持ちの準備を整える、平凡に平穏に仕事をしよう。 またあの人来てくれたらいいな。 その気持ちだけ今までと違った。 そしていつものルーティーンを終え、いつもの仕事をこなす。 「おはようございまーす」 『隼人おはよう』 「週明け仕込み多いですね」 『別に平気だよ』 「早めにこっちの仕事終わらせて手伝います」 『ありがとね』 今日も変わらないスタートに安心する。 決められた誰にでもできる簡単な作業、なぜか今日はいつもより丁寧だった。 「もう秋ですね」 『そうだね、そろそろキノコ使って何かオススメ出さないとね』 「じゃー今日は試食会ですか?」 『そうしようか?まだちゃんと決まってないけど、ゆかりも喜ぶだろうね』 「あいつなんでも喜びそうですよね」 『まぁそれがゆかりの良いところだよ、まぁ焦らずゆっくり一つずつ終わらせて、落ち着いたらやろうか』 「僕も手伝いますね」 『いつもありがと』 今日も変わらないが、当たり前の毎日の中で、いつもより少しだけ幸せを感じようとしてみた、あの人にまた会えるかも知れないと言う気持ちからなのか、それは自分にも分からなかった。 「おはよーーございまーす」 『はいおはよ』 「あれ?仁さん少し機嫌良さそう?」 『なんにもかわらないよ?ゆかりの方こそ何か良い事あった?』 「えっ!?わかりますー??良い感じの人とうまく行きそうで!」 『そっか、またゆっくり聞かせてもらおうかな』 「あっ、あんまり興味あるなさそうなんですけど」 『そんな事ないよ』 「いいから、早く準備しろよ」 「はいはいー」 呆れた顔で隼人はこちらを見ているが、微笑ましい限りだった、そして何よりも平穏なこの空間や雰囲気は、大切な物で間違いない。 取り繕うだけでなく、ここにいる自分は穏やかで、気がつけば知らぬ間に自分らしくいられているのかも知れない、二人には感謝している。 こんな自分でも良いのかと迷いながらも、こうして過ごせてる毎日にも。 『今
それから毎日は早かった、南と居る時間は自ずと増えていった。 水族館、遊園地、雪が積もる何もない道を二人で歩き、寒いねなんてありきたりな会話、飽きもせずただ一緒にいられる時間を大切にした。 周りは相変わらず飽きもせずどう言う関係か聞いて来た。 『何もないよ』 変わらず答えると、好き勝手囃し立てるも、気にもならなかった。 それでも、自分の周りとの距離感は大切に今まで通り変わらず平穏を守っていった。 南の周りでは、仁のせいで南の付き合いが悪くなったと後ろ指を指される事になっていたが、自分の理想を人に押し付け、勝手に裏切られたと人の努力も見ようとしない人達の言葉など何も感じなかった。 本当の南を知ろうとしたから。「私のせいでごめんね」 時折南は謝って来たが、なんの気にもしてなかった。 『何も気にする必要ないですよ、それより南さんの方がしんどくないですか?』 「私は平気だよ、今までに比べて少し自分らしく過ごせてるから、楽っちゃ楽かな」 『それが一番ですね、それでも横に居てくれる人を大切にしてください』 「それいやだな、仁くんに居て欲しいな」 『居るじゃないです』 時が過ぎれば過ぎるほどに、周りとの距離感を掴めなくなっているの南だったが、それでもいつかそんな南も心を開ける人現れるのを望んだ。 南の仁くんって居て欲しいは物理的にではない、それも理解できるからこそ側にいる。 それが他人とは違うだったのかもしれない、ただ自分が今こうしたいなど言う事が出せなかった。 そもそも空っぽすぎた、気持ちを汲み取り、顔色を伺い生きて来た所に自分自身の気持ちの入る余地などどこにも無くなってしまってた事に気がつく。 ちゃんと向き合い、南に寄り添いながら同じ気持ちになろうと努力したが、やはりどこかで南の期待に応える事でいっぱいだった。 それでも最後まで諦めなかった。 少しでも寄り添ってくれた南との時間は確かに楽しいと思えたから、最後を知っていたから、それまで全力で注いだ。 周りもひとしきりに自分達の関係にも、飽きてきた頃、前とは違う南に寄り添える人達もまた自然と増えていった。 それで良かった、嬉しかった。 南は少しずつでも、無理せず自分らしく居られる場所を見つけられたみたいだった。 自分は変れなかったんじゃな
翌日から、周りはもちろん南と何かあったのか然りに聞いてきた。 もちろん誰に対しても 『何もないよ、たまたま話してだけだよ』 その一言と、笑顔で返す。 こうなる事が煩わしかったが仕方ない。 もちろん周りは、何かあった方が楽しかったろう、少しでも面白い話をした方がいいのはわかるが、なにも話す事はない。 南が無理してる事を伝えたとて、自分に何の得もない。 次の日からも、南は変わらず明るく、笑顔をばら撒いていた。 時々南と目が合うが、その表情は今までの印象と違い苦しそうに見えた。 ただ誰もそれを気付く事はないだろう。 日曜になり、改札の前へ向かう。 そう言えば昼頃とは何時なのだろう? 明確な時間は知らさせれてなかった事を思いだし、12時前に向かい待つことにした。 30分くらい経った頃、改札から南がきた。 「ごめんねー!待たせちゃった!?」 『いいえ、少しだけですよ大丈夫ですよ』 「はい嘘でしょ、いいよそのままで」 『そのままですよ』 「どれくらい待った?」 『30分くらいですよ』 「ほら嘘、ごめんね待たせて」 『そもそもちゃんと、時間決めてないのに謝る意味がわからないです』 「うーんそっか笑」 『相変わらず南さんの周りは沢山人がいましたね』 「仁くんも相変わらずニコニコしてたね」 『やめてください』 「先に始めたの仁くんでしょ」 普段誰ともしないような、他愛もない会話、これはどちらの救いになっているのだろうか。 「立ち話も何だし行こうか」 『そうしましょう、コンビニで何か買ってきますよ、コーヒー飲めますか?』 「うんありがと!流石」 『待っててください』 南は楽しそうだった、きっと歪な考えを自分も同じだと言った事に少しだけ期待して、自分の前では何も無理をせず、接してると思ってくれてたのだろう。 色づき始めた木の葉、池には鴨達が泳ぐ。 スケッチをする人、写真を撮る人、手を繋ぎ歩くカップル、走り回る子供達、今日はとても綺麗に見えた。 公園のベンチに腰掛けながら、他愛もない話もそこそこに、コンビニで買ったパンとコーヒーを広げる。 『どうぞ』 「ありがとね!食べよー」 『コーヒーも開けておきます』 「いいよー、気使わなくて」 『
休日もいつもの様に過ごしていた。 起きたい時間に起き、特別やる事を決めてる訳も無く。 気が向けば外出し、いつもの決まった川沿をコーヒー片手に歩き、友人と約束があれば朝までくだらない話で飲み明かし、いつもの平凡な平穏を謳歌する。 特に予定も無くダラダラと過ごした。 コンビニで買ったビールを流し込むも、中々寝付けない、少し夜が長い気がした。 タバコを吸おうとベランダに出ると、今日だけは夜風が自分にだけ優しく感じた。 昨日の人が少し頭をよぎり、少しだけまた会えないかな?と、こんな人間が思う、どうせ自分には変わる事が出来ないのに。 なにも変わらないのに、もう失敗しないと誓ったのに、灰色の人生に少しずつ沢山の色で溢れて欲しいと願う。 自分も人の事を信じても良いのかなと、自分を許せる時が来るのでは無いかと、同じものを楽しいと思っても良いのではないかと、少し期待した。 過去は過去でしかないのに、それを言い訳にし、恐れてる自分に心底腹が立ちつつ、なにもする事は出来なかった。『花凛の事を知りたい』それが答えだと分かってはいるのに。 自分はできてると、失敗しないと、を勘違いして人を傷つけてしまった事を、そんな事忘れるくらいに、普通でいられたのに。 が少しだけ人のためになる事を知れた、学生時代の記憶が蘇る。 なんて事ない普通の高校生で、勉強も、部活も、恋愛もそこそこ、いつも変わらない何気ない毎日、友達との関係も可もなく不可もない。 ありふれたいつもの毎日。 今日も顔色を伺い適切な言葉を選び、適切な態度で、波風立たない普通の毎日。 このまま、普通に過ごしていくと思っていたのに。 その日は、一人で帰りたい気分だった。 理由なんかは無く、ただそんな気分だった。 あの時みんなで帰って居れば、話す事もなかったのに。 プレイリストの中にある、色んな歌達の色んな歌詞に、どんな想いが裏にあるのかを考えながら歩き始めた。 少しだけ人の心がわかる気がした。 駅の階段を下り、ホームに同じ学校の制服の人がいた。 田舎の小さなホーム、古びたベンチに腰掛け本を読んでる人と案の定目が合う。 それと同時に笑顔で会釈され、手招きされ、めんどくさい感情を抑え、いつも通りの笑顔で会釈を返す。 『どうも』 どうせ聞こえやしないのも知っていた。 女性にし
「はぁ、もう終わると思ってたのに...仁さんなんでーー」 愚痴をこぼすゆかりは、やはりもう仕事などできそうになかった。『二人はもう上がっていいよ、後は一人でやるから』 最後の一人くらいはなんて事なく一人で対処できる。「いいっすよ?そんな優しさいらないですよ、最後まで一緒にやりましょう」『ゆかりはもう仕事する気が無いからあげちゃうね』「あいつあーなったらダメなんで笑いいっすよ」 隼人は責任感が強くいつも助けてくれる。『お飲み物はお決まりですか?』「ビールありますか?」『ギネスにハイネケンの瓶になります』「うーーん、じゃーギネスでお願いします」『かしこまりました』『お待たせしました』 こくりと頷き、小さな声でいただきますと聞こえた気がした。 片手でしっかりと持ち、もう片手を添えて飲む姿が異様に上品で、思わず見惚れた。 「ふー、すみませんオススメはなんですか?」 ビールを一口飲むとすぐに聞いてきた。 見惚れて居たのがバレたので無いかと、動揺したが、自分に限ってそんな訳がない。『すみません、明日が休みでして、あまり材料が残ってなくてですね...お一人様なので、もしよろしければこちらで少量ずつ取り繕って提供させていただいてもよろしいですか?』「えっ!?すみません、そんなタイミングで申し訳ないです...それでお願いしてもいいですか...?」『いいえ、こちらこそ申し訳ございません...何か苦手な物や好きな物ありますか?』「いいえ、苦手な物は無いです!なんでも食べます!好きな物も特に無いですけど、強いて言えばクリーム系が食べたい気分です」『申し訳ございません、クリームソースは今日完売でして...最善を尽くします』「あっ、いいえ!本当になんでもいただきます!」 少し気まずい空気が流れ、表情や声色から焦りと申し訳ない感情が苦しいくらい伝わってくる。『すぐ準備します』 そう言って作業に取り掛かる。『お待たせしました』 ミネストローネ トマトとモッツァレラの簡易的なサラダ トリッパのトマト煮に 1枚のバケット 蛸と鯛のカルパッチョ 少しずつ小皿に丁寧に盛り付け出す。「えっ美味しそう...ありがとございます!いただきます」 申し訳ない感情や不安は少し取り除かれていた。 一口一口を丁寧に運ぶ度に表情も変わり、驚いたり
あなたは子なのよ」 その言葉は幾つになっても、自分の心を縛り付けていた。 幼い頃に言われ続けて来た呪いの言葉だ。 『またこの夢か...』ため息と同時に魂までも抜けていく様な胸糞悪さに目が覚める。 拠り所など無く、助けてを求める声すら上げる事もできなかった思い出したくもない過去。 自分の気持ちを押し殺し、否定や拒絶は良くない事だと思って居た。 何も無く生きてる事が、死んでる事と何ら変わりなかった。 周りに合わせ、楽しい事を楽しいと、悲しい事は悲しいと合わせる、どんな事にも文句ひとつ言わずに耐え忍ぶ事が、だと思って居た。 変わりたいと強く思えば思う程に、過去の過ちに引きずり込まれる。 いつか自分も、心から楽しいと思える日がくると願いつつ、自分を変えるのは、自分しか居ないと知っているのに、それは難しい事と諦めてる自分がいた。 花凛に出会い、花凛との全てが特別になるまでは、が温かい物だと思うことを恐れてた。 何も特別感じる事も無くなった、冷めた心が動き出し、自分の心さえも大切にしたいと思える様になった。 心から人を思う事がと花凛が笑顔で居てくれれそれだけでいいと。 それらを乗り越えるために向き合う事が出来る事が本当のなのかもしれないと。 いい子であろうと努力した。 そのおかげか、両親や周りの目を気にし、人の機嫌を取ることばかり長けて行き、偽りのは、いくらでもばら撒く事ができていた。 毎日ゴミ箱の様に様々な言葉を吐き捨てられ、文句一つ言えば、それ以上の攻撃を受け、弱い自分では反抗もできず、ただただ溢れないように押しつぶしてきた。 一人泣きながら夜が明けるのを待つ日は、いつしか日常の一部になり、生きてる意味すら見つけられなかった。 生に執着もなくなり、幾度と神様に殺してくれと願った所で、なにも変わらず、一人で死ぬ事ばかり考え、何かと嫌な事があるとそういう時ほど笑顔でいる事が上手になっていた。 周りを伺い、程よく笑顔で相槌を打ち、人の気持ちを汲み取りながら馴染んでいく、協調性を大切に人に不快な思いをさせない。 大人になり、それがそれなりに役には立っているのなら、そんなに悪くないのだろう。 その思想こそが、願われてた事なのだろうか。 学生時代の立ち回りもそこそこ 一般的な事は







